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ふと乗ってみようと思ったのだ。
内房線で五井を通り過ぎる度に、「黄色い列車」という応援ソングの存在を知って以来
房総半島を横断する形でつながっている2つの鉄道がずっと気になっていた。
思いつき故に昼過ぎに出発では、日の明るいうちに乗りとおすことはできない。
外房線の途中にある茂原で一泊する。駅周辺を歩き回ったが、飲食店は充実していない。
仕方ないので、ホテルの食堂で夕食を摂る。久々に旅行先でまともなご飯を食べた気がした。
大原まではステンレスに青と黄色の帯が入った列車に乗っていく。
いすみ鉄道の次の発車は10:39発。ホームに停車している一両の気動車には、
「楽しいムーミン一家」に登場するキャラクターが施されている。車体の側面だけでなく、
窓ガラスににも貼られている。正面にも貫通扉の腹にヘッドマークのごとく、
キャラクターが配された丸いシールもあり、いすみ鉄道とどんな経緯があるのは不明だが
別名「ムーミン列車」は千葉のムーミン谷を走るという。
いすみ鉄道といえば、詳しいところはwikiなんたらを参照してもらうとして
日々、ブログを更新する社長は公募で選ばれた元海外の航空会社勤務だった人である。
社長のブログは一読する価値がある。一通り読んだが、鉄道を観光ツールとしていく考え方は
巧みな文章もさることながら、思わず頷いてしまう説得力がある。
「人が乗らないから赤字になるのではなく、魅力を引き出さないから赤字になる」
赤字を脱するための策として、鉄道を観光ツールとして活用していこう、というのが
この社長のいわば、経営方針ともいえる。
【いすみ鉄道 社長ブログ】:http://isumi.rail.shop-pro.jp/
ぬれ煎餅で車両の検査費用を賄った事で一躍、全国的に有名になった銚子電鉄とは
もちろん歴史は異なるが、鉄道を観光資源にという考えは共通しているように思える。
始発駅である大原で一日乗車券を購入。お土産屋を兼ねた観光案内のスタッフに
降りるのにお勧めの駅を教えてもらったが、途中下車はどこか一駅にしないと、小湊鉄道に
乗り継ぐ予定としている身としては時間的に厳しそうだ。
途中の大多喜で途中下車しよう。正確にはデンタルサポート大多喜という駅名だ。
歩いて15分のところに大多喜城があるため、ホームには兜姿の武士と忍者姿の人形が
2体が出迎えてくれる。雨が降っているためか、他に観光客の姿は見かけない。
大多喜城。お城の中は資料館になっているが、正直なところ地味な城という印象だ。
小田原城や大坂城のような大抵の人が知っている城とは言い難い。
展示されている昔の町並みを再現した模型や資料を見る限りではもっと東京のように
栄えていてもおかしくないと思えるのだが、なぜか発展せずに今に至っている。
大多喜駅周辺も商店が並んで、ちょっとした商店街を形成していた歴史があるようだが、
当時の賑わいは続くことはなかった。だが何かの契機で機運が高まれば、第二の首都圏として
栄える可能性はありそうな気はする。
お昼ご飯は駅へ向かう下り坂の途中にあった店で鹿なんばんそばを注文。
店を出てから雨の中を駅へ戻るが、まだ時間があるので、駅前の「番所」という名の
カフェで食後のコーヒーとアイスクリームを食べる。
次の列車で終点の上総中野へ。すぐに14:00発の小湊鉄道に接続しているが、
あえてこの列車を見送る。次の列車は3時間後であり、この日の最終列車になる。
小湊鉄道は五井~上総牛久までは1時間に1本の頻度で運転されているが、
上総牛久から運転本数が激減する。始発から終点まで通しで運転されるのは4往復だけ。
次の17:15発が出てしまうと、ここから発車する列車はなくなってしまう。
3時間もどうするかいうと、ウォーキングがてら旅館の立ち寄り温泉に入ろうという目論見だ。
距離は6kmばかり。往復2時間なので、向こうでゆっくりと温泉に入れる計算である。
雨が降っているので傘を差しながらとなってしまうが、日ごろの運動不足を解消するためにも
こういう機会は無駄にする手はない。
当然ながら、歩いている人など皆無。通り過ぎるのは車ばかりだ。
路線バスも走っているが、残念ながら今日は運転日ではなかったらしい。
ひたすら歩く。雨なので周りの景色を楽しむ気分はあまりない。というより、楽しむ景色ではない。
ここは車なり、バスなりで通り過ぎた方が正解のような気がする。
1時間ほどして目的の旅館郡が見えてくる。もうすぐ15時なのできわどい時間帯だったが
最初の2,3軒ではすでに終わっていると断られ、次の旅館でどうにかお湯にありつける。
歩いた後に湯船に浸かるのは気持ちいい。だが帰りの列車のことも考えると、それほど
ゆっくりとはしていられない。湯上りに缶のカフェオレを飲み干すと、来た道を引き返す。
結局駅近くには列車が発車する1時間も前に到着してしまったので、近くの喫茶店に立ち寄る。
看板があるので喫茶店に違いないが、店構えがもろ普通の住宅だったので営業しているのかと
開いている玄関を恐る恐る覗いたが、奥から店員のおばさんが出てきた。
コーヒーとケーキを注文するが、他に客はいない。
黙って座っているのも何だか間が持たないので、店員のおばちゃんと時間まで雑談する。
おばちゃん曰く、晴れていれば客足がもっとあるそうだ。この喫茶店に訪れる客もあるという。
どんな流れでそうなったのかは覚えていないが、年に一度だけ海外旅行に行くことがあって、
トルコの日本人に対する親切ぶりにはたいそう感動したという。日本人が旅行して大変
居心地のよい国だと何度も力説していた。こちらは残念ながら海外旅行にはまだ興味がない。
このままだと列車の発車時間になるので、店を後にする。
5分ほどで駅に到着すると、すでに2両編成の気動車が扉を開けて待っていた。
無人駅故に、きっぷは発車してからやってくる車掌さんから購入する。昔ながらの細長の紙には
金額と駅名が並んで印字されており、専用の鋏で丸く穴を開ける。
列車はしばらく霧に出ている闇夜の線路を走っていく。車内はオールロングシートだが、
車両のレトロ感故に、東北本線の701系のような露骨さを感じないのが何だか心地よい。
ただし701系と違って車内にトイレがないので、今日のような車内でも肌寒い日は飲食には
気をつけないとトイレを我慢する羽目になる。
トイレは近いほうなのでやはり尿意を覚えるのだが、上総牛久でどうやら少々停車する
様子なので、急いでホーム端のトイレに駆け込む。なんとか無事に同じ列車に乗り込めた。
このあたりからいつの間にか市街地という雰囲気になる。
それまでガラガラだった車内も各駅で乗降客があり、車内は賑やかになる。
街中を走っていると先ほどまでの不安感はもう消えている。霧の中を走っている間は
全然違うところに連れて行かれるのではという変な妄想をしていたが、もちろんなかった。
帰ってから、購入したいすみ鉄道が販売している「い鉄揚げ」を食べたが、
これは大変おいしい。銚子電鉄のぬれ煎餅も良いが、こちらも双璧の一品だ。
量の割りに600円はちょっと高いが、これならあと3袋ぐらい買っても良かった。
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