2011年2月8日火曜日

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【北海道&東日本パスの旅 6日目】 納沙布岬まで20kmを歩いてみる

釧路
08:15発

↓ 5629D 根室本線

10:40着
根室






朝4時半に目が覚める。眠い。始発の列車で根室へ向かう予定であったのだが
誘惑には勝てずに二度寝し、起きたのは7時過ぎ。朝食を済ませてから出発。

8:15発の根室行きに乗り込む。
発車5分前だったが、席はところどころ空いていた。
隣のホームでは、これからやって来る普通列車に設置するサイドボードを
所定の位置に準備するおじいさん。清掃も兼ねている様である。

今日もよく晴れている。日焼け止め対策をせねばならない。
北海道まで来てこの暑さとはまったく予想外である。南稚内のキヨスクのおばさんも
釧路の立ち食いそばの店員の若いお兄さんも話していたように、本来なら長袖でないと
肌寒いくらいのはずであった。歩くと気持ちいいくらいに考えていたのだが、
どうやら暑さとの戦いになりそうである。

列車は釧路川を渡ると、東釧路。
幅の狭い小ぢんまりとしたホームで釧路行きと交換。釧路行きが先に発車していった。
一人おばあさんを降ろすと、こちらもホームを離れていく。

ここから終点の根室までは別名、花咲線として単線をひた走る。
武佐。青年が一人乗車。今時の若者は北海道でも格好は変わらない。
気動車の一両編成は、リズミカルに線路のジョイント音を刻みながら緑の中を走る。
尾幌へ向かう途中でiphoneの電波は圏外になる。北海道を旅行していると、時折
日常からの電波が圏外になる。日常からの逃避に大変都合がよい。

上尾幌。釧路行きと交換。今乗っている列車は一日に2本しかない貴重な各駅停車。
狙ったわけではないが、なかなかない機会なのでじっくりと各駅を見ることが出来る。

尾幌。車掌車を転用した駅舎。北海道だとよく見かけるタイプのもの。
たいていは中で誰も待っている姿は見かけないのだが、初めて待っている人の姿を見る。
この列車に乗る様子はなく、腕時計を見ながら時間を気にしているおばあさんが二人。
これから来る釧路方面の列車を待っているのかもしれない。
きれいな状態の駅舎はここ最近になって、補修したのかもしれない。動物のかわいい絵が
ペイントされているが、ちゃんと利用されていることを実感できるのがうれしい。

門静。右手に砂利が広がっているが、おばちゃん達が昆布を干している最中であった。
太平洋が広がりはじめ、根室本線最初のハイライト。海沿いの住宅街ではここでも
昆布干しの光景を見ることができる。しかし、これは海ではなかった。厚岸湖である。

緑の沼地を左手に見ながら、列車は走っていく。
糸魚沢。乗降客はなし。ドアが閉まる。茶内で4分ほど停車。トランクを引いた中年女性が
一人降りていった。上り列車と交換すると発車していく。

茶内は小規模な住宅街という印象。4分停車するなら、私と同じ考えを持つ同業者は
早速ホームでの撮影会となる。茶内を出てしばらくすると、列車はスピードをあげて
それまでの2拍+2拍から3拍の早いジョイント音になる。

浜中。乗降客なし。姉別で作業員が3人。これから移動して保線作業でもするのだろうか。
窓から下を見下ろすと、走る去る風で草が避けていく。となりのトトロに出てくる
「ねこバス」に乗ったような気分になる。

厚床。2人乗車。地元のおばあさん方だろう、いずれも暑い、暑いと口にしている。
地元の人がそう言うのだから、異常な暑さに違いない。
線路沿いから少し離れた「地震計測」と書かれた建物で作業員が3人ばかり作業していた。
そのうちの一人はこちらは向いて何かを書いていた。

初田牛。乗降客はなし。
別当賀で2人乗車。この時間帯の根室行きはそれなりに利用者がいる。
無人駅で乗ってくる人の姿を見ない事が多いが、駅がある限り、利用者がいるのだという
当たり前の事実を実感できる事がなによりうれしい。

3つ目のハイライト。今度は本当に太平洋が左手に見えてくると、緑の丘の上の線路を
列車は優雅に走り去っていく。北海道以外ではおそらくこんな景色はないだろう。
うまく表現できないことは何とも隔靴掻痒、こんな所に線路があって、列車(一両なので
列車ではないが、そう呼びたい)が走るのが少し現実離れしているような気がしてくる。

昆布盛。乗降客はなし。細長いホームが後ろへ去っていく。西和田も乗客はおらず。
花咲。この駅は初めての北海道旅行で下車した無人駅である。当時の記憶どおり、
少し奥に広がる海沿いには風車がいくつか、ゆっくりと回っている。
緑の崖に風車が立ち、その向こうはずっと海が広がっているのだ。

東根室。すでに有名な日本最東端の駅。
駅前には車が停まっており、目的は明らかだが、撮影客だけで賑やかである。

終点根室。少し前までは実はこちらにも「日本最東端の駅」と看板があった。
初めて北海道旅行してやってきた当時はそうなっており、最東端の駅が2つあるという
奇妙な状態だったが、ここ最近は「日本最東端有人の駅」に修正されている。

根室から早速道道3号線に向かってもいいのだが、折角なので先ほど通り過ぎた
日本最東端の駅へ寄ってみることしたい。列車では何度か通り過ぎことがあるが
実際にホームに足を踏み入れた事がなかったのである。
根室から線路沿いならそれほど距離はないのだが、線路沿いに歩けるような道がない。
地図をよく確認しながらでないと忽ち、迷ってしまう。もともと駅が無かったところに
できた駅という歴史を後で知り、それでふたつの「最東端の駅」の謎が判明した。

IphoneのGPSを使いながら、住宅街の中を歩いていくとようやくたどり着いた。
住宅街の中に少し高台にある板張りのホームは、根室駅に比べると最東端という雰囲気が
あまりしない。「日本最東端の駅」という控えめな木の柱がなければ知らない人は全く
知らないだろう。根室駅の「日本最東端有人の駅」の看板は東根室が出来てここ近年まで
「日本最東端の駅」となっていた。歴史的に見れば、根室駅の方が長いので、看板に対する
気合の入り方が東根室とは違うのは当然である。だが今や東根室がもっと主張しても
良いのだが、控えめな感じなのが何とも不思議と思えるのが一観光客として印象である。

列車が来るところを撮影したいが、あと1時間程やって来ない。
これからの行程を考えると、ここでのんびりとする訳にはいかないのでホームだけを撮影し
納沙布岬へ向けて歩き出すことにする。
まずは道道35号線へ。「海岸町一丁目」の信号がスタートラインとなる。時刻は12時。

予定ではもう少し早い時間から歩き始めているはずだったが、朝起きれなかったのである。
帰りも歩いて根室に戻るという当初の予定は変更し、帰りはバスで根室に戻ることにした。
稚内でまさか日焼けするとは思わなかったので、日焼けした後では遅いのだが、これ以上
日焼けしないためにも、すでに日焼け止めクリームを塗って来た。

今日も日焼けしそうな日差しである。しばらく歩いていくと左手には海が広がってくる。
道道35号線は列車の窓から見た道路とは正反対に車の往来が頻繁にある。
地図では分からないが、道は上り坂と下り坂が緩やかに繰り返している。歩き進めるうちに
道路沿いにはあまり家が建っていないことに気づく。そのために左に広がるオホーツク海が
よく見えるのだが、それもそのはずでかつて走っていたオホーツク海経由の路線バスが
廃止されており、実質車でしか往来するしかなくなってしまったからである。
根室駅周辺でないと、通勤通学も現実的ではないだろう。家が少ない地域にこれほどまでに
車が頻繁に通るのは、観光客だけでなく地元の人も混じっているのかもしれない。

頻繁に通るといっても、アップダウンが激しいために見通しが悪い区間があり
車も下手にスピードを出せない様子だ。または周辺に何もないからゆっくりしたスピードに
こちらからは見えるのかもしれないけれども。
海と牧草と放牧されている数匹の牛。北海道でなければなかなか見れない景色だろう。

歩いてから1時間半。目をこらすと遠くに白い柱らしいのが見える。納沙布岬の白い塔だ。
しかしまだその姿ははっきりとはしない。その少し手前に2機の風車がゆっくりと回って
いるのが確認できる。ゴールの灯台はまだまだ先である。
東京のように高い建物など邪魔するものがないので、遠くまで見渡せる。

スタートから2時間経過。原生花園公園の前に到着。ちょうどトイレがあったので用を足し
ちょっと一休み。進むべき方向に目をやると小さかった灯台は前よりはっきりと見える。
リュックに忍ばせておいたココナッツビスケットを栄養補給に齧っていると、原生花園公園
の入り口となる木の柵からポニーが一匹顔を出していた。彼にお別れの挨拶をしてから
あの白い塔を目指して再び歩き始めることにする。

地図ではわからないが、根室駅周辺と比べると家は少ないが住民の気配は感じられる。
干されている昆布がその証拠だろう。日差しは強く、北海道とは思えない暑さには参るが
途中で休憩を入れたので何とか歩き通せそうである。
しばらく歩くと、道路は先ほど遠くから見えた2機の風車のすぐ横を通りすぎる。

前方の白い塔がだんだんと大きくなってくる。道路は右にカーブしたり、左にカーブしたり
を繰り返す度に、白い塔は右に移動したり、左に移動したりする。歩いている人が珍しい
らしく、すれ違う車からの視線を感じる。歩いて4時間もかけて納沙布岬を目指そうなんて
よほどの物好きでなければまずはやらないが、車ではこのはるばる来た感はわからない。

途中から何故か歩道が無くなる所がしばらく続くので、歩くときは注意が必要だ。
頻繁に車を見かけるがほとんどが納沙布岬からやってくる車で、私と同じ方向の車は
あまり見かけない。見かけても数台で、少し前方で後方の車が追い越しをかけるのを
何度か見かけたが、道路沿いの観客(=私)に見せたい心理が働くのだろうか。

途中で湖が見えてくる。トーサムポロ沼という海の跡らしい。
沼の向こうに緑の大地が広がり、その奥に白い塔が右手に見える。ゴールはもう少しだ。

最後の1時間が長く感じる。納沙布岬まであと10kmを示す看板を見てから2時間経って、
ようやく到着した。時刻は4時過ぎ。予定通りのペースである。白い塔や北方領土返還を
願うモニュメントを見に行きたかったが、この暑さの中では4時間も歩けばヘトヘト。
そばのベンチで買っておいた1リットルの紙パックコーヒー牛乳を飲みながら、海の向こう
に霞んで見える淡く黒い島影を見る。国後島、そして歯舞諸島だろう。実質今もロシアの
領土となっている島々の返還を願う気持ちは根室駅前の「返せ北方領土」の看板よりも
より強く静かに感じる場所である。

体力が回復したところで、「四島の橋」という名のアーチ方のモニュメントを見上げる。
珸瑶瑁水道(オホーツク海とは呼ばのは愉快ではないだろう)の先で分断された元日本領土
を再び日本に繋ぎ止めたい、そしてその願いを世代を超えても渡したいという意味で
「橋」が使われているのだろう。それはすぐそばで燃え続ける炎も同じ意味である。
返還を祈る気持ちを消さないように、消えないように燃やし続けているという。

「希望の道」。石畳の所々に各都道府県名が刻まれた石が埋め込まれている。
この祈りが北海道だけでなく、日本全体で祈るべき一大事であることを静かに訴える。

そばの「北方館」は2階建ての横長の白い建物だが、入り口そばでは署名を求める活動以外
後は展示物だけという感じで、広く多くの人に理解を深める趣旨こそはわかるのだが、
今ひとつ力が入っていない印象がある。どうしても観光客向けの一スポットという感じで
車や観光バスでやってくる観光客の殆どは「北方領土」には関心はほとんど無い様で、
納沙布岬から遠くの島々を見ていたときに老夫婦から記念撮影を求められた時は、なんだか
やるせない、無力感のような気持ちでカメラを向けていた。

ここは本来北方領土返還の理解を求める場所で気軽に記念撮影をするような場所ではない。
しかし「北方館」やすぐ後ろの「平和の塔」と名の白い塔を維持するためにはどうしても
地元だけでなく、観光客からの収入が必要になって来る。観光地に成り下がっては駄目だが
観光客すら来ないのでは困ってしまう。北方領土の問題をどう伝えていくのかが実に
そのバランスが難しいものと考えさせられる。

白い塔は予想したとおり、展望塔であった。
もう閉まっているかと思ったが、18時まで開いているようだ。帰りのバスは17時29分。
それを逃すと19時過ぎまでバスが来ない。扉を開けて中に入る。受付には若い女性二人。
場末な雰囲気だからか、他に客がいないからか、あまり元気がないように見える。

エレベーターで3階、そして4階が展望台である。900円の入場料がが観光客としては
割高な気はしたが、はるか奥まで続く地平線が丸く湾曲しているのはやはり地球が丸い
事を改めて実感させてくれる。今まで歩いてきた道道35号線を見下ろすと、根室方面は
先が白く霞んで見えないけれど、感慨はひとしおである。

もうすぐバスがやってくる時間なので、トイレで急いで着替えてから展望そばのバス停で
しばらく待つ。17時29分ギリギリになって滑り込むようにバスがやってきた。
バスは夕暮れの海岸沿いを今度は太平洋周りに根室市街に向けて戻るのだが、
次のノサップ岬のバス停から一人若い男性が乗ってきた以外は乗客は増えなかった。
この時間帯はほとんど利用客がないのかもしれない。バスが走っているルートだけに
太平洋沿いの道道35号線は家が多く、海があまりよく見えない。
改めてオホーツク沿いを歩いてきて良かったと思った。行きでもあったが、バスの後ろから
追い越しをかけていく車があった。バスの運転手もその辺は心得ているらしく、適当に
バス停に停車してやり過ごしていた。夕食はエスカロップと決めていた。
駅周辺には出す店があるが、前回の旅で閉店間際で駆け込んで迷惑をかけてしまった
ジャズ喫茶「薔薇」に行くことにした。一旦ホテルにチェックインして荷物を置いてから
その店は向かう。前回はものすごい雪だったが、今は夏。でも肌寒くない。

駅に近い「ニューモンブラン」に比べると、こちらはあっさりとした味付け。
それに瓶ビールを注文する。ジャズが控えめにゆっくりしたテンポで流れる店。
釧路のスパカツより、私には根室のエスカロップが好みに合いそうである。

ホテルに向かう途中に気づいたが、去年の冬にお世話になった駅前の「タイエー」は
セイコーマートに変わっていた。明日は釧路へ戻り、ちょっと釧網本線を寄り道しながら
帯広へと向かうことにする。早めに寝ることにしよう。

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