2010年2月11日木曜日

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【北海道&東日本パスの旅 3日目】 2429Dと賄い飯

函館
1:23発

↓ 函館本線~室蘭本線~千歳線~函館本線
  急行 はまなす

6:07着
札幌
6:58発

↓ 函館本線 129M

8:35着
滝川
9:37発

↓ 根室本線 2429D

17:39着
釧路
18:30発

↓ 根室本線 5639D

20:49着
根室  ※ホテル宿泊







ラーメンを食べている最中、店内の時計を見る。
12:00。ここで旅3日目が迎えることになった。

歩いても間に合うだろうが、道に自信が無い上に雪道である。
路肩で待っているタクシーに乗ることにした。

タクシーの運転手曰く、今年は北海道でも底冷えする寒さだという。
気温にして-5度。これが-7度~8度になると鼻水が凍るそうな。
雪も平年よりは多めに降っているようで、本来は12月から降る雪が
温暖化の影響もあってか、1ヵ月ほどずれ込んでいるとのこと。

根室へ行くのだと話すと、もっと寒いはずだという。
ということは雪の量も半端ないだろう。
例のミッションは成功するだろうか。

函館駅のトイレではみがきとひげそりを済ませ、
急行「はまなす」の改札が始まるまでしばしベンチに座って待つ。
列車到着の10分前になると改札が始まった。例のきっぷを
自動改札機に突っ込み、列車到着まで自由席のりばでしばらく待つ。
確かに寒い。確実に自分が座りたい自由席を確保するために
青森駅の吹きさらしのホームで長時間座って待っていたことを思い出す。

例のきっぷの利用期間がもう終わりに近いのか、
快速「ムーンライトえちご」の運転日ではなくなったためか
はたまた受験シーズンでそんな旅をしている余裕がないためか

前回、夏の旅ではデッキにまで人が溢れており、
座席は諦め、思い切って通路の床に寝たくらいだったが
今回も所々席は埋まっているものの、難なく座ることができた。
スイッチバック式の路線であり、機関車交換のために23分間停車。
車内では座席の転換が行われ、列車も前と後ろが逆になり
方向転換してまだ夜が明けないうちに札幌へと向けて走り出す。
乗り慣れてきたためだろうか、思いのほか眠ることができた。
目が覚めると千歳に到着するところだった。
2度寝を決め込んだらしく、乗務員に起こされると終点の札幌。




乗り換えの滝川行きは50分後。
列車内で食べるつもりで駅前のコンビニで朝ごはんを調達。
列車は発車の10分前に到着するが、ボックスシートに確実に
座りたいので早めにホームに並んでおく。
待っている間も手が痛くなってくる。氷点下というのものを
身をもって実感する。早朝の列車は客のほとんどが通勤客らしい。
座ったボックスシートも相席となるほどの乗車率。
肩を窄めるようにして申し訳なさそうにやきそばパンを食べる。






赤い普通列車は野幌を出た頃、右手から日の出が見える。
北海道特有の寒さのためか、太陽のその輪郭はぼんやりとして
雲の後ろから透かすような光が差しているが、不思議と一向に
丸い形にはならない。奇妙な形のまま雲に隠れてしまった。
家々の煙突には白い煙を吐いている。
ストーブも活躍するほどの寒さということだろう。

昨夜のタクシーの運転手の話の通りなら、2月が寒さのピークらしい。
これから厳しい寒さが続くということだろう。
逆に3月以降の寒さが緩み始める時期は北海道人にとっては
風邪をひきやすくなるので注意が必要だとか。

岩見沢でそれまで強制お見合い状態だったボックスシートは
急に空きだした。大半の乗客がホームの階段を上っていく。
ほとんどが札幌からこの岩見沢までが主な通勤区間のようだ。
岩見沢では8分程停車。同じホームの隣から網走行きの
特急「オホーツク」が出発していくのを見送ったあと、
列車は後を追う形で同じ線路を走り出す。

美唄着。白いマットにはレールの黒い線が2本見えるだけ。
ちらちらと雪が降っているが、除雪しなければまたレールは
白く隠れて見えなくなってしまうだろう。

滝川着。ここからが旅3日目のハイライトとなる。
列車番号2429D。釧路行き。鉄道オタクでは有名な列車だ。
また、内田百閒著の「阿呆列車」でも取り上げられている。
普通列車としては運行時間が日本一といわれている列車だ。
滝川を9:37に発車し、釧路には17:39に到着。
8時間かけて走るのんびりとした列車に乗ることにしたのだ。




列車は改札に一番近い、1番線ホームに釧路方面から入線。
北海道内の普通列車ではおなじみの白地に緑と青の帯を巻いた
キハ40系が1両。私のようなバカな客がどれだけいるだろう。
おそらくいないだろう。特に派手なアナウンスがあるわけでなく
列車は定刻になると静かにホームを離れていく。

次の東滝川で3分停車。
上りの快速列車と交換するための待ち合わせである。
いきなりローカルっぷりを発揮し始めたようで、嬉しくなる。
しばらくして隣から雪煙を舞い上げて、1両の快速列車が通り過ぎる。


列車は再び動き出す。
雪おろしのためだろう、白くなった屋根の上に梯子が立てかけてある。
屋根だけみても、東に進むにつれて雪はふとんを何枚もかぶせた様に
厚くなっているのがわかる。件のタクシー運転手の話していた通り
東端の街、根室では雪で埋もれている事を覚悟せねばならない様だ。

隣のボックスシートに座る30代と思しき男性。
手に一眼レフを抱えている。釧路まで乗りとおす同行の士だろうか。

芦別でまとまっと人数の乗客が下車。野花南~島ノ下が長い。
長いトンネルに入るが、もう落合まで来たのかと錯覚してしまった。
隣のボックスシート氏は携帯版の時刻表を見ている。やはり同士か。
いや、身支度をし始めた。富良野で降りるようだ。








富良野の手前で空知川を渡り、富良野では20分停車。
車内アナウンスでは後ろに1両増結すると案内されていた通り、
しばらくして同じホームに貫通扉を開けたままゆっくりともう1両が
やってきた。数えるほどの普通列車とあって、車両同士の連結は
貴重な光景かもしれない。ましてやそれが2429Dなら尚更だろう。



富良野からは右手に富良野西岳。
頂きが白い。列車はゆっくりと走っていく。
山部で快速「狩勝」とすれ違うために3分停車。
何度も川を渡っているから、意外と川が流れているのだと思ったら
どうやら空知川がずっと蛇行しているようだ。
次は幌舞、ではなく幾寅。まとまった人数が降りていったが、
後で調べてみて納得。「鉄道員」のロケに使われた駅だったのだ。

ガラガラの車内となって列車は走っていく。
実際は停車時間も含んでいるが、次の落合までも、その次の新得も
時刻表を見る限り、それぞれ約20分時間がかかっている。
駅間距離がさすがに北海道スケール。


車内はガラガラのまま、列車は走っていく。
落合ではすでに上り列車が待っていた。先に発車していく。
こちらは11分停車。それでも幾寅からは10分はかかっている。

落合を出るとトンネルの連続となる。
12:25。トンネル内で石勝線の線路と合流する。
ここから根室までは根室本線として列車は走ることになる。

12:31。長いトンネルを抜けて視界が開けてくる。
特に新得直前は高低差があるため、S字にヘアピンカーブするが
この区間から斜めに見える山々の景色はつい見入ってしまう。
新得のホームが前方に見える頃、右手にリフトが動いているのが見える。
新得駅前のスキー場は客の数は少ないが、楽しんでいる姿。


新得定刻着。
次の十勝清水へ向かう途中に見えた道路は雪で白く埋もれ通行不能。

十勝清水では10数人が乗り込んできて急に賑やかになる。
スポーツウェアの若い集団がロングシートや隣のボックスシートに座る。
帯広くらいまでは一緒かもしれない。正直乗り合わせたくない連中だ。
13:06。次の駅へ向かう途中で特急列車待ち合わせのために
少々停車するとの車内アナウンス。
5分ほど停車している間に若い集団を一瞥すると、ゲームに夢中のようだ。
こちらを意識する風でもないので、こちらとしても少しは落ち着ける。

この時点で2429Dに乗って3時間。約3分の1を終えたことになる。
帯広に到着したところで、丁度半分となろう。
御影で他の若い男女数人が降りていき、何人かが乗ってくる。
このあたりから帯広あたりまでが生活圏なのかもしれない。

地図上ではなく、特急列車ではなく、駅に丁寧に停まっていく
鈍行列車に乗らないとこうした風景は見えてこない。
若い集団は未だにゲームに熱中している。
「ミッキーが・・・」など時折聞こえてくる会話から
「キングダム・ハーツ」をやっているらしい。

次の芽室で若きゲーム集団の大半が降りていく。
代わりに見るからに地元の方々が乗り込み、先ほどとは違った賑やかさ
になる。ずっと見ていて思ったが、若い女性はボックスシートには
座りたがらない。私のような先客がいればなおさらだが、こういう場合は
2人掛けのクロスシートに座り、自分以外に座りづらい事を計算している
ように見える。

大成では高校生と思しき男女の集団。
滝川を発車した時のように、1両編成ではかなり込み合うことになる。
席は程なく埋まり、立ち客少々。座ることが気まずいだけだろう。

西帯広では若い連中のほとんどが下車。
代わりに幾人かの高校生だろうか、乗り込んできた。
受験シーズンだけにこの時間帯でも若い男女を今日は多く見かける。
受験シーズンが過ぎれば、もっと静かな車内かもしれない。

柏林台の手前、右手に貨物の帯広駅。構内の倉庫に使われているのか
屋根から垂れてる氷柱を見て少々驚く。関東ではまず想像できない。
あともう少し長ければ地面まで届きそうな長さである。

列車は一旦停車する。同じ運転士が2429Dを運転するのかと思ったが
この帯広で交代するらしい。すでに交代した運転士が降りていき
貨物駅方面へと歩いていくのが見えた。







柏林台でも大半の学生が下車し、帯広定刻着。
ほとんどの乗客が降り、空っぽになった車内を見届けてから降りる。
構内の店では前回食べた駅弁とは違った駅弁を買うことにした。
「収穫弁当」と「にぎりっ子」である。「にぎりっ子」は豚丼に使われている
豚肉をご飯と一緒に海苔で巻いたものが3つ入っていた。
前回の豚丼弁当とあまり味としては変わらないので少々期待はずれ。
しかしボリュームはあるので、お腹は丁度良いくらいに満たされる。

停車時間は32分。
だが先に発車する同じ方面の特急列車が遅れている。
到着は定刻より14分程遅れるらしい。特急列車に乗ろうかと迷う。
この特急列車に乗れば、根室には19時少し前に到着できる。
しかしそれでは、2429Dを乗りとおすという目的が達成できない。

14:31。隣の特急列車が発車していったのを見届けた後
発車時間をとうに9分過ぎて、2429Dは帯広を発車した。
札内川を渡り、稲士別を軽やかに通過。
幕別で上りの特急列車と待ち合わせのために少々停車。

利別川を渡り、利別、そして池田で何人かの客を乗せて発車。
帯広まで聞こえていた黄色いにぎやかな声は聞こえてこない。
「10ドル駅」と書かれた10ドル紙幣の看板が目を引く、十弗。
この駅も9分の遅れを引きずったまま発車する。



道路の青い看板「釧路 53km」。2429Dの終点はもう少しだ。
浦幌で乗り合わせていた「黄色くない声」の方々が何人か
降りていく。上り列車と交換して発車する。
と、ここで「大」がしたくなった。トイレにしばし篭る。
列車内では今まで「大」をする機会はほとんどないのだが、
どうやら心身ともに緊張せず、こころから旅を楽しめているらしい。

トイレから出ると、駅名票が見えるから、駅で停まっている。
てっきり次の駅なのかと思ったが、ドアは閉まっている。
乗降客がいないためだったのか、左手の窓に見える駅名票は
「つねとよ」。時刻表には載っていない。臨時駅だろうか。
貨物列車が右手をすれ違う。待ち合わせのための停車だった。

15:49。常豊を発車。ケータイの電波は圏外。都合よし。
仕事関係の電話も、知り合いからの電話もかかってこない。
関東あたりの日常から忘れたい身としては大変ありがたい状況。
電源を切っているわけではないから、これは不可抗力である。
電波が圏外なんだから仕方ない。ちゃんとした理由がある。
もし電話がかかってくるのが嫌なら、北海道を旅するのが
実はお勧めかもしれない。

上厚内を3分遅れで発車。
帯広での9分遅れは、その後に設定されている長時間停車を
うまく削って遅れを取り戻していたようだ。
このまま行くと釧路は定刻で到着するかもしれない。
背中から地元のおじいさま、おばあさまの談笑が聞こえる。
後方のボックスシートでおしゃべりを楽しんでいるのだろう。




厚内。この駅を出てしばらくすると右手に海が広がってくるが
しばらくすると見えなくなり、白と黒の世界に戻る。時々民家。
直別、尺別、音別。只見線のような「~別」シリーズが続く。
尺別を出たところで、海が再び見えるが、手前には白い平原。
平原を白くしている雪は辺りが暗くおり、怪しく青みがかっている。

このまま定刻発着かと思ったが、上りの特急列車が遅れており、
音別では4分遅れるとの車内アナウンスが流れる。
左側を上りの特急列車がすれ違った後、16:28に発車する。
しばらく見えていた海が離れていき、古瀬で3分停車。
ここでも左側を特急列車がすれ違い、16:41に発車。
ここでようやくダイヤ通りになる。外はもうすぐ暗くなる。
民家か駅の明かりくらいしか識別できなくなるだろう。

少々賑やかな街の灯とともに白糖。ここで5分停車する。
2人の青年(=個人的には静かそうな印象の少年)が乗ってくる。
西庶路で母親と10代の女の子。おそらく親子だろう。
隣に母親が座っていなければ、この車内に君ひとりなら・・・
スポーツメーカーの白いロゴが入ったナイロン系のコートを
着たまま、「アレ」をしゃぶってもらおうか。
フードを被ったまま、「アレ」で白く汚れたフードや嫌そうな顔を
しばし妄想する。もちろん、膨らませたのは「アレ」と妄想だけに
留めておく。この北海道から帰ることはできなくなるからだ。

大楽毛ではすっかり夜になってしまった。
12分停車の間に暗がりの中を左側から貨物列車が通過。

なぜかホームには明かりがない。車内からの灯が漏れている。
この間にバラバラと何人か乗り込んでくる。
太り体系の青年が機嫌悪そうな表情で、2両目へ続くドアを
勢い良く音を立てて閉めて消える。
この青年を始め、次々に2両目へと消えていく。皆若い。
先ほどから乗っている「ボックスシート談笑組」の方々だけ
に比べれば、ぐっと平均年齢は下がったことにだろう。
発車直前で上りの普通列車がホーム向かいに到着。
先に上り列車が発車してからようやくこちらも動き出す。


17:39。釧路には定刻着。
次の根室行きまでは40分ほど時間が空く。
おみやげを買い、宅配してもらおうとキヨスクによるが、
すでに宅配の受付時間が終わってしまったとのこと。
40分では駅前を歩き回るだけで終わってしまいそうである。
前に訪れた時は素通りしていた構内の飲食店のひとつにある
改札そばの喫茶店に立ち寄り、ビールとおつまみで時間を潰す。

こうした時間待ちの客のテーブルの回転率をあげるためか
それとも気づいていないだけか、店の掛時計は10分進んでいる。
改札がはじめる10分前。入り口のガラス戸越しに改札を開始する
案内のアナウンスが僅かに聞こえてきた。




発車5分前にホームへ。すでに席のほとんどが埋まっていたが
運良く2両目の後ろより、進行方向の左側の2席が空いていた。
車内を見渡すと、席は黒い制服の方が多くを占めている。
受験シーズンなのだろう。終点根室まで行くのだろうか。
よく見ると飲食している人もいる。彼らにとっては食堂を兼ねた
談話室という感じだろうか。

座ったクロスシートから車内の照明で窓が鏡のごとく、
通路を挟んだ隣のクロスシートに座る男、女2人ずつが見える。
転換クロスなので、ボックスシートのように向かい合わせにして
話が弾んでいるようだ。

弾んでいるように見えたが、反射する窓越しに観察していると
どうやら場が白けないように女の子だけがテンション高めに
しゃべっている。男2人組はそれぞれカップルというわけでは
なさそうである。男と女の子で話題はかみ合っていない。
女の子同士の話には食いつくつもりはない様子だ。
男の1人は音楽を聴いているようだが、聴いてはいないようだ。
どうもその男は自分の知らない話題がされることをひどく気にする
神経質な性格に見える。それさえなければ、あとは勝手にして
と音楽を聴いてこの場をやり過ごそうという気概がある。

女の子同士に注目する。あくまでも反射する窓越しに。
女の子の1人はケータイの恐らくメールだろう、ケータイの向こうの
知り合いとやりとりしながら、器用におしゃべりをしている。
ケータイとリアルの両方の世界を同時にこなす。
現代の若い世代に必須の能力なのだろうか。

こちらも列車が自分の降りる駅が着くまで、この場をやり過ごそうと
無理やり明るく振舞っているように見える。
観察眼に自信は全くないが、男2人は女の子同士のおしゃべりの
添え物のような扱いに見えてしまう。

産経新聞には現代をそのときの気分で消費したり、話したりする
気分型社会の行動傾向にあると「キブンの時代」という見出しで
記事が連載されているのを読んだ。
窓越しに見える彼らを見てもそんな気がする。
キブンさえ白けなればと、誰かの悪口だとか、恋愛話というネタが
なくなれば、気まずい空気から少しでも逃れるために、
ケータイを弄るか、音楽を聴くか、寝たふりするか。
友達同士(とお互いが認識しているかはわからないが)なら、
場が白けないように空気が乱れないように、会話が途切れたなら
ケータイを弄る。ケータイを弄りながらまた会話する。
随分とエネルギーを使うようになったものだと感心してしまう。
ケータイならケータイ、おしゃべりならおしゃべりに徹すればいい。
両方同時にやろうとするから疲れるのに、とおじさんは思う。
若いのに鬱や自殺が多いのは学校や仕事以外のプライベートでも
心から楽しめず、こうしたエネルギー消費にストレスを感じているのが
実は大きな原因かもしれないのかなとちょっと考えてみたりする。

車窓の外が真っ暗で時折流れる灯か、駅名標を照らす灯以外は
何も見えない代わりに面白い車窓が見えて全く飽きない。
根室までこの車窓が見られるかと思ったが、門静で男2人のうち
神経質ではない方の男が下車。他の3人も他の学生さん同様に
厚岸で降りていった。受験生の今宵の宿泊先かもしれない。
すぐ前では教科書だか、問題集かを読んでいた勤勉そうな
メガネをかけた女の子もいれば、先ほどの男女2人のような
受験はとりあえず何とかなるっしょという感じで楽しいキブン重視の
人もいて、改札へ向かう黒い幾つもの背中を窓越しに見て
色んな人がいるものだと改めて感じる。

厚岸から先もしんしんと雪が降っている。
例のミッションを実施するには覚悟が必要なようだ。

・・・ゴトン、ゴトン、ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・

雪のためか、走行音がくぐもっている。
リズミカルにゆっくりと揺れながら聞こえる音はまるで
心臓の鼓動のように聞こえてくる。揺れる天井をしばらく見上げる。
胎内にいるような感覚にも思えてくる。

2両編成は静かに確実に走っている。妙な安心感。
乗客は10人に満たない静かな車内に鼓動だけが聞こえてくる。
物音を立てるのが申し訳ないくらい静かな車内で、
女性の自動アナウンスだけが時折流れる。
窓の外に雪で白くなったホームがぼんやりと見える。
駅名標がないとそこがホームであることがわからない。
窓によっては、白く雪が張り付いている。

ずっと乗っているので車内は上着が要らないほどに暑いが
列車の外に出ればかなり寒いに違いない。
突然途中で嫌な音がしばらく続く。
雪が床下に入り込んだのか、レールと車輪の間に入り込んだか、
スピードが少し緩んだがまた元のスピードに戻る。
続いていた心臓の鼓動が一瞬止まったようにも思えた。

この影響で初田牛は2分遅れで発車。
例のミッションは11分間が勝負だが、これでは9分間となってしまう。
発車前に運転士が、反対側の運転台まで行き様子を見に行き
どうやら異常がないことを確認した上で出発。

花咲で1分遅れ。日本最東端の駅、東根室でどうにか定刻発車。
これならちょっとあぶないが、根室には定刻に到着できそうだ。
列車が到着してからの11分間は1分も無駄にしてはならない。
2両編成のため、改札が一番近いドアに立ってスタンバイ。





根室定刻着。
久々にきた駅だからしばし撮影をしていきたいが
そんな余裕はない。改札で待つ駅員に切符を見せつつ、
走るようにして待っているタクシーに駆け込む。
とても走って間に合わない。そう思ったのだ。

「喫茶店『薔薇』までお願いします」

閉店まで5分前。これなら余裕で間に合いそうだ。
タクシーの運転士からおつりをもらう。まだ看板の灯が付いている。
運転士の言うとおり、急な階段を上がった2階が入り口である。
だが、階段を駆け上がる途中で電気を落とされてしまった。

ドアを開ける。
まさに最後の客2人がこれから会計を済ませようとしているところだった。

「エスカロップはもう無理ですか?」

ドアから会計の済ませた客2人が出て行く。
店員のおばさんいわく、油を落としたから(火を消した)
もう終わりなんですと最初は言われてしまう。

だが厨房のおじさんとおにいさんに確認してくれた。
余程縋るような表情だったのか、何とか無理が通ったらしく
このわがままな客のために今日最後のエスカロップを作って
もらえることになった。店内はジャズが小さめに流れていて落ち着く。

かくして今回2度目の根室ではジャズを聴きながら
エスカロップを食べることが出来た。列車がどこかで遅れたら
それこそ諦めざるを得なかったところである。
しかもこの根室沿岸で収穫されたという「コマイ」と呼ばれる
魚の切り身が入った汁をサービスしてくれた。
厨房の方いわく、賄い飯とのこと。無理を通した上に
賄い飯という裏メニュー。申し訳ない気持ちで頂く。
さっぱりしている。臭みはない。前回の「ニューモンブラン」の
オニオン(?)スープも良かったが、こちらはメニューにない
貴重なコマイ汁。魚の身も残さないように頂く。

こちらのエスカロップは「ニューモンブラン」に比べると
少々さっぱりしており、食べやすかった。すぐに平らげてしまう。
また来たときには(果たして再び来られるのか)来店しようと思う。

閉店作業の邪魔になってはいけないから、急いで食べ終え
お礼を言って店の階段を駆け下りる。
看板の灯が消えた入り口を出ると、まだ降り続いている。
タクシーでやってきた道を戻る。歩いてうちにすぐに白くなる。
叩いても叩いてもすぐに白くなる。しかし歩きにくいわけではない。
「かんじき」が必要なくらい、それこそ膝が埋まるくらいを覚悟したが
歩道と車道、必要最低限のところは除雪されている。
それでも足元の歩道部分も含めて白く覆われ、辛うじて
人が歩いたところが凹んでいることで認識ができるほどだ。
まるで砂糖の上を歩いているような感じである。

そのまま予約したホテルまで行くと、ホテルからまた出るのが
面倒なので、そのまま例のコンビニ「タイエー」へ行ってみる。
前にお世話になったときはなかった「やきとり弁当」というノボリが
入り口付近に立っている。しかも根室名物とまで謳っている。
函館に行った時には、函館市電の十字街電停近くの
「ハセガワストアー」で一泊した翌朝に帰りの特急列車で
食べる駅弁として買ったが、いつの間に根室名物になったのだろう。
(後でwebで調べたら、やはりハセガワストアーが元祖だが
株式会社ハセガワストアーがチェーン展開しているため、
ある意味、名物を謳っているのは全く間違いではない)

ともあれ、函館でしか食べられないと思っていたら
根室でも展開するようになったのかと思っていたが
これもwebで調べる限りだと少し前から展開しているようだ。
私が初回に訪れた時はやきとり弁当はなかったような気がするが
それは勘違いで、言われてみればあったような気もする。

思わぬところで名物が買えるとあって、
チューハイやら紙パックのジュースやらお菓子を買った勢いで
つい、注文してしまった。食べたばかりなのに。
サイズ小でタレ味を一つ。そのまま15分ほど待つ。
地元の人なら最初に頼んでおいて、その間に他の買うものを
探すだろう。ここに来て2度目だというのに・・・。

予約しているホテルはさらに東根室方面へ5分ほど歩いたところ。
歩いている間にもまた白くなってしまう。ホテルへ入る前に
白くなった上着や靴をできるだけ叩く。
部屋は暖房がかなり効いている。とここで大事な物を買っていない
ことに気づいた。アイスクリームとガラナである。
風呂上りのアイスクリームは欠かせない。
ガラナは前に来たときも飲もうと思ったが、買えずじまいだった。

雪の中、今度はタイエーへ行く途中にコンビニがあるのに気づく。
一番東端にあたる「セイコーマート」だ。北海道を移動中は何度か
お世話になっているコンビニである。
お目当てのガラナは売っていた。「ガラナエール」と赤地に黄色い
文字で書かれたラベルだが、色はコーラのようだ。

ホテルに戻る。ホテル内の自動販売機を何気に見る。
良く見るとこちらにもガラナを売っていた。
ただ、こちらは新鋭なのかあのKIRIN製らしい「キリンガラナ」が
あったが、今回はパスしておく。
これもgoogle先生に教えてもらったら、ガラナはこの2種類だけ
ではないようだ。「キリンガラナ」に関しては東京でもキリンの
自動販売機で販売していたとか。

あまり腹は減っていないが、勢いで買ったやきとり弁当を食べる。
さすがにこれを翌朝の朝ごはんにする気にはなれない。
函館で買って特急列車の中で食べた味を思い出す。
タレがしみこんだ海苔とご飯が旨い。ゆっくりと味会う。

さて気になっている「ガラナエール」を飲んでみる。
一口。飲んだことがない味である。コーラではないことはわかった。
が、そのままゴクゴクとは飲めそうにない。
そこでふとこれも買っておいたロング缶の「氷結」と割ってみる。
チューハイのガラナ割りだが、これがなかなか相性がよい。
「氷結」のグレープフルーツ味の酸っぱさをガラナの甘さが
よくマッチしていて飲みやすくなった。これならいくらでも飲める。
気づくとロング缶はしばらくして空っぽになってしまった。

チューハイも飲んでお腹一杯。
もう1本発泡酒の缶を買ってしまったのは後悔。
でもこれも朝飲む気はないので、プルタブを開ける。
先ほどの「ガラナエール」で割りながらだらだらと飲む。
翌朝は明るいうちに釧網本線を走り抜けるために
根室本線の始発列車に乗る予定だった。
5時58発に乗るためには5時には起きていないといけないが、
その予定は変更することにした。
先ほどエスカロップを食べた店、「薔薇」の店員に訊いたら
まだ流氷は着岸しておらず、沖60kmほどのところらしいと
北海道新聞に載っていたと話していたからだ。

結局11時03発の列車に乗ることになったから
急いで閉店間際の店に駆け込まずともゆっくりと駅に向かいながら
エスカロップは食べられたのだ。ただ「薔薇」は定休日だと電話で
確認しているから、再び「ニューモンブラン」で食べたであろう。
しかし、コマイ汁という賄い飯の存在を知らないままだったかも
しれないから予想外の出来事に満足している。

「アレ」してからベットに潜り込んだ。

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