2012年6月24日日曜日

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JR時刻表の3月号を開いてみる。
163ページにその列車は走っている。

大垣から関ヶ原は列車の苦手な勾配があり、
これを避けるために北へ遠回りするルートがある。
このルートの途中には新垂井という駅が存在していた。
西村京太郎の「ミステリー列車が消えた」で、誘拐犯たちが
寝台列車の乗客たちを監禁するために下車させた駅である。

普段は下りの特急列車と貨物列車以外は通らないルートだが
年4日、3月末頃にこのルートを通る臨時快速米原行きがある。
列車番号9423F は大垣を7時58分に出発すると、終点米原までノンストップ。
トンネルを抜けると年に4回だけ、普通列車の窓から廃止された新垂井駅の
ホームを通過する景色を眺めることができる。

単線の線路は関ヶ原の直前で再び合流する。
つまり下りは2本の線路を使っていることになる。
新垂井駅跡経由と垂井駅経由でそれぞれ列車が走っている。
だから、時刻表の索引地図では8の字を描いている。

神奈川県在住の者がこの臨時列車に乗るためには
前晩に大垣に宿泊するか、臨時快速「ムーンライトながら」
に乗るかしかない。
新横浜始発の東海道新幹線ひかり493号では、
名古屋でひかり495号に乗り換えたとしても岐阜羽島に7時45分着。
タクシーを飛ばしたとしても10分以内に大垣駅に到着できない。

ムーンライトながらの指定席の壁を乗り越えたなら
1日1本だけ、名古屋始発の美濃赤坂行きに乗ることができる。
列車番号101Fの時刻をよく見たら、ムーンライトながらを
名古屋で乗り換えた方が待ち時間が少ないことに後で気づいた。

美濃赤坂はドラマか映画のロケで使われたようだが、詳しいことは忘れた。

臨時列車で米原まで行き、大垣方面に戻る列車で垂井駅を下車。
ここから新垂井駅跡まで、相川沿いにしばらく歩く。
相川にはたくさんのこいのぼりが風の川に泳いでいた。

しばらく歩いた後に方角を北に変えてひたすら歩く。
歩くこと45分、「ミステリー列車が消えた」の中で出てくる
人質を監禁した給水塔は発見できなかったが、
ホーム跡はすぐに見つかった。駅名標と線路を外した以外は
当時のままという印象を受ける。

調べていくとどうやら、瓦屋根の駅舎があったようだ。
小さな駅前広場に建られていたけれども、利用する客が減って
長大なホームだけ残して廃止になってしまった。

駅は廃止されてしまったが、東海道の下り本線扱いである。
そのため米原へ向かう特急列車はこの新垂井駅跡を必ず通過する。

一方、上り本線に並走している線路は「垂井線」と呼ばれている。
下りの支線扱いとなり、制限速度が設けられている。
線形はこちらが良いのだが、制限速度故に特急列車はスピードを出せない。

垂井駅を通過する特急列車は存在しないが、
この線路を逆走する普通列車はある。

関ヶ原どまりの下り列車が大垣方面に折り返す場合、
配線の関係で上り線に転線できない。
そのため垂井駅までは走って来た下り線(垂井線)を逆走することになる。
最も「本線」ではないので、逆走しているように「見える」が正確な表現か。

垂井線無き当時は下りは新垂井、上りは垂井しか停車する駅が無いので、
お互いの駅に行くには隣の関ヶ原か、大垣で乗り換える手間があった。
垂井駅と新垂井駅は歩いて行けない距離ではないが、
生活で使う事を考えると現実的ではない。
そこで垂井に停車するために下りにもう一本の線路を敷いたのが垂井線。

垂井に利用客が流れる形で新垂井の利用客は減少、終いには廃止となったが、
線路としては特急列車が颯爽と通過する本線として現在も使用されている。
普通列車が大垣〜米原で東海道線で最も本数が少ないのはこうした事情が
あるからだろう。

新幹線、中央リニアにご乱心のJR東海が耳を貸すとは思えないが、
ダイヤを改善する余地はある。
冒頭で登場した臨時快速を増やせば良い。関ヶ原からの上り折り返しが
本数増加のネックなら、そのネックを無くせば良い。
この快速が関ヶ原にも停車するようになればなお便利だろう。

「ミステリー列車が消えた」で登場する青い寝台列車が停車するシーンを
再現するべく、他の人のサイトには朝方通過する寝台急行「銀河」を
夏の明るい時期に撮影した写真があった。
しかし、もう二度と青い列車は通過しない。通過するのは白い特急列車だった。

十津川警部の気分で新垂井を後にして大垣へ折り返す。
大垣から乗り換えて降りた駅は枇杷島。

JR東海が東海交通事業という会社名で枇杷島から勝川まで結んでいる単線の鉄道。
周りが電化区間バリバリの中、ワンマンの気動車一両が高架をゆっくりと進む。
城北線と呼ばれているが、名古屋の摩天楼が見えるからか何ともミスマッチな
感じがどこか異空間を進んでいるような気がしないでもない。

尾張星の宮が「つきのみや駅」の風景に一番近いのかもしれない。
尾張星の宮を通り過ぎると、まるでそんな風景が幻想だったように遠くへ
消え去る。摩天楼が遠すぎる気がしなくもないが、もっと近くなら
幻想的かもしれない。

枇杷島から線路はつながっている。
夜行列車がドラフト音を響かせて煙を吐いて走っていた頃、
何かの事情で今の城北線の線路へと入線したかもしれない。

長旅の疲れで居眠りしていた旅行者が寝ぼけ眼で見た摩天楼が
幻想的に見えたかもしれない。
それは当時見えた未来の名古屋だったのかもしれない。
駅は名古屋ではない。尾張星の宮だからだ。

反対の終点、勝川と中央本線の勝川はだいぶ離れている。
同じ駅名なのにやたらと歩くことになる。地下の連絡通路などないので、
雨の日は憂鬱だ。
JR東海の新幹線と在来線への力の注ぎ方に落差を感じざるを得ない。
駅名は違うが、東京メトロの永田町と赤坂見附の方が地下通路で
連絡しているだけどれほどお客に親切な事だろう。
エスカレーターもついているし。

勝川から名古屋へ。一気に浜松まで戻る。
浜松からは「赤電」こと、遠州鉄道に乗り換える。
真っ赤な電車が新浜松から天竜浜名湖鉄道の鹿島まで南北に結んでいる。
夕暮れ時の電車に乗り込んで居眠りしたら、ひしめき合う住宅街と住宅街の狭間に
突然摩天楼が見える怪しい雰囲気がありそう。

♪遠鉄、えんてつわぁ〜るど〜

終点の鹿島駅近くで気づいたドアに貼られた戸袋引き込まれ注意のステッカー。
耳を引き込まれて驚くウサギの顔が何ともファンキーで笑いそうになる。

♪遠鉄、えんてつわぁ〜るど〜

また頭の中で不思議な歌詞が流れ始める。
車内広告もさりげなく遠鉄をアピールしている。
危ない、アブナイ、もう少しで遠鉄ワールドに洗脳されるところだった。

鹿島から折り返しの電車でしばらく目を瞑って見たが、
つきのみや駅は無かった。さぎの宮ならあったけれど。

中央構造線が豊川から北へカーブして近くを走っているから
構造線を境に年代の異なる地層が押し合う事で発生する「ゼロ磁場」による
「気」が人体に何らかの影響を及ぼして、幻想的な摩天楼を見る事があるかも、
なんて妄想を逞しくしていたが、やっぱり妄想だった。

ファンキーなウサギのステッカーだけが妙に映像として頭にこびり付いた。

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