2011年12月17日土曜日

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◉ジオイドとは  国土地理院 ジオイド測量ホームページ
http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/geoid/geoid/geoid.html

標高って分かっているようで分かっていなかった。

ある物の高さを求める時は当然「基準」が必要だ。
高さを測る始まりの点だが、これがバラバラなら意味がなくなる。

例えば東京タワーの「高さ」は333mである。
「高さ」と「標高」の違いをこれまで意識した事がなかったのだ。

東京タワーの場合は足元の面からの高さを測れば良い。
もちろんそんな長い巻尺なんてないからここは数学の三角比が
活躍することになるだろう。

東京タワーの建つ中心点(てっぺんから垂線を下ろした地点)から
歩きながら見上げた角度が45度になった地点が中心点からどれだけ
離れているかを測る。名前が分からないが地面を転がしながら長さを
測れる道具を使えばよいだろう。そんな道具がなくても自分の歩幅と
歩数を掛けた数でもだいたいの距離は分かるはずだ。

中心点も実際にタワーの下には潜れないので、足元の周囲をこれまた
歩幅と歩数で測り、その距離の半分が中心点となるはずだ。
正方形の中心となる点ならイメージし易いだろうか。

中心点からの距離に自分の目線の高さを合計すれば東京タワーの
高さが求められる。三角比というか、三平方の定理が分かれば
理解頂けるかもしれない。

だが富士山(に限らずどの山もそうだが)の場合はどうだろうか。
東京タワーのようには行かない。高さを測る「基準」が曖昧だからだ。
理論的に東京タワーの方法で計算しようにも物理的に無理なのだ。

地球はどの地点でも平面だ。だが離れた2点を結んだ直線となると
そうではない。数学だと微分を使って地球のどこに立っても平面と
いう理由として説明される所だが、これが重要なポイントだ。

地球が完全な球形と考えよう。これを半分に割る。
すると断面図は円になる。この円周上に1つ点を打つことにする。
さらに円周上にもう一つの点を打ってみる。これらの点を直線で結ぶ。

東京タワーくらいならこの2点の直線距離は地球規模でみれば
この2点の円周上の距離との誤差は僅かだが、富士山の場合は無視は
できなくなる。実は東京タワーの方法もこの点で正確ではない。
この誤差に目を潰ればおおよその高さが求められるだけだ。

正確な高さを求めるにはこの直線距離を計算すればよいだろうか。

東京タワーの頂点から円周上に接するように直線を引く。
同じく東京タワーの頂点から垂線を円周上まで引き、先ほどの円周上の
接点からも直線を東京タワーの垂線と交わるように引く。

すると2点の直線を底辺とし、東京タワーの頂点から円周上の接点まで
引いた直線が斜辺となる直角三角形が出来る。
斜辺の長さは東京タワーがどこまで離れて見えるかの距離になる。
だがこの長さを計算するためには、東京タワーの頂点から下ろした
垂線の長さが分かっている必要がある。

振り出しに戻ってしまった。
やはり、高さを求めるには「基準」が必要になってくる。

これまで説明の便宜上、地球を「完全な球形」としたが実際は違う。
極端だが、レモン型を横にしたのが地球の形状である。
赤道方面に出っ張るのは自転による遠心力が影響しているためだ。

綺麗な楕円かと思いきや、重力が地点毎に異なることからも
それに影響を受けている地殻面、つまり地球の表面はデコボコなのだ。
デコボコしている面を「基準」に高さを計測は出来ない。

そこで高さを求める「基準」を設けてあげる必要がある。
それが「ジオイド面」と呼ばれる計算上の平面である。
詳しい計算は知らないが、日本においては「GRS80楕円体」と
呼ばれるモデルが地球に最もよく似た形状として使われているらしい。

そのモデルではじき出した楕円体の表面からジオイド高と呼ばれる
高さを求めると、表面から一定の高さの平面が出来上がる。
国土地理院のページを私なりに解釈すると、海面が「ジオイド面」
となるものと思われる。

「標高」が「海抜」とも呼ばれているのはそのためだろう。
海面からどれだけの高さに抜きん出ているかを示しているのだ。

それはジオイド面からの高さとも表現できる。
計算上の基準から計測した高さが「標高」ということは
実際の「標高」はまだ誰にも分かっていないことになる。
富士山の標高だって本当は3776mではない可能性があるのだ。

・・・だから何だ。実はどうでもよい前置きだ。
思いつきで後から書いてみたかっただけだ。

富士山の標高は確か3776メートルだよなと確認する途中で
「ジオイド面」を説明した国土地理院のページに目が入ったのだ。
標高はあくまで数式で表現された基準からの高さだった事を知り、
標高をよく理解できていなかったという発見をしたのだ。

前述の三角比の方法で東京タワーの「高さ」は測れても
富士山の「標高」は測れない。「高さ」と「標高」は違うのだ。

人生で2度目の富士山登頂をする事になった。

父が登山好きの影響と、人生で一度は登ってみたいという願望から
父と2人で登ったのが最初の登頂だ。この時は御来光を拝むために
夜からひたすら登って行き、日帰りで下山する強行軍だった。
見上げると登山者のライトの灯りが登山道に沿ってジクザグに
動いている光景を思い出す。夜間は足元が暗く、ライトがなくては
足元が覚束ないのである。

今回は我々の他に初登山に備えて他の山で訓練した2人が同行する。
1人は私の母。もう1人は父の友人で、台湾人の奥さんがいる。
初登山者に合わせるために前回の強行軍というわけにはいかず、
山小屋に泊まる1泊2日のゆったりしたスケジュールになった。

富士山のような標高では悩みの種は高山病である。
気圧が低いと血圧が上がるので、目の充血、頭痛、吐き気が現れ、
空気が薄いために眠気も襲ってくる。

登山シーズンの夏とあって、駐車場は満杯のようであり
富士山スカイラインの路肩には高速道路の渋滞のようにずっと
並んで駐車されている。ナンバーは関西や九州、北海道と日本全国から
登山者が訪れているようだ。

我々の車は五合目から3kmほど下に駐車したので、
実質4合目からのスタートを切る事になった。
登山ルートは4つあるうちの富士宮口と呼ばれるルートだ。
ルートは一番短いが、その分急な岩場を登り続ける事になる。

高山病を軽減するために、5合目で1時間半ばかり滞在し、
気圧に慣らしてから登り始める事にする。
土産物屋で各山小屋で焼印するつもりで金剛杖を購入した。

五合目とはいえ、標高は2400m。
振り返れば、すでに白い雲を浅く見下ろす風景が広がる。

富士山には丹沢のように川が流れていない。水は貴重だ。

飲料水は持参しないといけない。山小屋でも販売しているが高い。
山小屋はそれぞれ1合目毎にあり(新七合目、元祖七合目とあったりする
ので正確には違うが)、トイレは有料で1回200円だ。(宿泊者は無料)
もちろん汲み取り式だが、トイレがあるだけでもありがたい。

六合目。雲海荘を通り過ぎる。
右手後方へ宝永山へ向かうルートが分岐している。

後ろを振り返る。ずっと奥まで白く広がる雲を真横に見る。
飛行機では狭い窓からしか見えないが、ここではガラス越しではなく
水晶体を通してじっくりと見渡す事ができる。登山した者だけが
味合う事の出来る自然からの特典映像だ。

新七合目。御来光山荘。ここでもしばしの休憩で息を整える。
五合目から400メートル近く登っただけだが、白い雲の特典映像は
先程よりも視線が高くなり、鳥になったような気分になる。

前回の夜行登山では経験できなかったが、日差しが意外に強い。
山小屋以外では遮るものがないので、日焼けしてしまう。
気温が低く、変わり易い山の天候という認識だったので日差しが
これ程にも強いとは思わず、日焼け対策をしていなかった。

平地よりも太陽に近く、振り返れば雲を見下ろす標高なのだから
当然日差しは強いはずだ。夏山に対する認識が甘かった。

元祖七合目。山口山荘。標高3010メートル。
どの山小屋もそうだが、日の出を拝めるように山頂を背にして
建てられている。山小屋越しに見上げるが山頂はまだ遠い。
よく見ると次の山小屋だけは確認できる。

八合目。池田館。御来光拝観所と大きな文字で看板に書かれている。
標高3250メートル。もう500メートル程は登らないといけない。
後ろの雲はまさに白い平原。ジブリの天空の城ラピュタを思い出す。

木の柱が一本立っている。何かに目印だろうか。
裂け目に硬貨が幾つも挟まれて、何だかフジツボのようだ。

雪渓を右手に見て、九合目の万年雪山荘が今回の宿だ。
この頃には日差しも弱くなってきた。

通り過ぎた山小屋の中では規模が大きい。
入ってすぐ食事が出来る木のテーブルが幾つか並び、奥には座敷。
座敷部分にはカーテンがあるので、夜は寝床として使用するらしい。
壁には昔ながらの振り子時計が静かに登山者を見守り、安全な登山を
祈るために隣には神棚が祀られている。

脇の通路は奥へロの字型になっており、両側に屋根裏のロフトの
ようになった2段構成になっており、上段は梯子で上り下りする。
各ブースは8人が雑魚寝する形でなるべく女性と男性を分けるように
しているようだが、定員の都合でなかなか難しいようだ。
それぞれカーテンがあるだけで、すぐ隣には知らない登山者と
密着する形で寝るので、寝返りするのも気を遣わないといけない。

これが今時は「山ガール」なんて呼ばれる女性が隣同士で
偶然の出会いから恋に発展する確率がロマンスカーよりも高いかも
しれないとありそうにない妄想する余裕はこの時は無かった。

日焼けと体力消耗と山小屋での夕食、そして持参した酒とつまみで
過ごす時間が楽しみでそんな気分にはなれなかった。

外は何時の間にか暗くなり始め、視界は白く何も見えない。
18時までらしいので、本日最後の金剛杖への焼印をしてもらった。
あとは頂上一つを残すだけになった。

焼印をする火鉢のすぐそばのテーブルなので少しは暖かい。
それでも雨が降り始めてくると冷え込んできて、上着を来ないと寒い。
今日の登山を振り返りながら、持参の焼酎とつまみのプリッツと
鯖缶だけだが、格別の味がしたのは気のせいではない。

ほろ酔い気分になったところで、本日の夕食はカレーライス。
ほぼ日本一高い場所で食べるカレーライスは登山者のみが味わえる
特典その2である。達成感を余韻に酒を飲めるならこれも特典だろう。

夕ご飯を食べたら、明日に備えて早めに寝床に入ろう。
お風呂はもちろんないから、汗を拭き取るウェットティッシュが
活躍するのだ。持ち物リストで見落としやすいかもしれない。
拭いたときにだいぶ日焼けしてしまった事に気づいた。
下山しても治るのに1週間ばかりはかかるだろう。

布団に入ると、激しい雨音と風が聴こえる。
どうやら嵐になっているらしい。山小屋に入ってからだから、
天候には恵まれたようだ。あるいは山の神様のお陰だろうか。

しかし、明日はどうだろうか。
このまま嵐が過ぎ去らないなら、安全を考え下山せざるを得ない。
山の神様にお願いしながら夢の中へ。

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