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普段の生活なら、夜中の2時に寝ても朝7時には起きれない。
それがこのホテルの部屋では目覚めが良いのだから不思議だ。
今まで色んなビジネスホテルに泊まってきたけれど、
日差しが入ってこない窓のせいだとずっと思ってきた。
このホテルも皇居側に窓が向いているので、
日差しは直接入ってこない。カーテンも閉めてあった。
部屋の環境によるところが大きい。
空気が綺麗なだけでなく、本当に寛げる空間であること。
ベットに寝転んで、眠るのに時間はかからなかった。
目が覚めるまで一度も目は覚めなかった。
目が覚めた時には、大抵変な体勢で寝ている事が多いので、
腰や背中が痛かったりするのが、これも全くない。
たった5時間でも疲れない。眠くない。
一流とはこういう事でもあるんだと実感した。
昨日は見えなかった皇居の森がビルとビルの向こうに見える。
土曜日の朝7時。横切る車はとても少ない。
冷蔵庫が収納されているキャビネットには
ティーセットがある。部屋用でもカップ類に手抜きはない。
また、お湯を沸かす器具もT-FALの高速湯沸かしポットである。
電熱コンロの上で沸かす例の器具などここには相応しくない。
T-FALの高速湯沸かしポットを使ってみたが、
使い方も直観的で迷わなかった。本当にあっという間に湯が沸く。
ティーセットにあったドリップ式のコーヒーで目覚めの一杯。
冷蔵庫のすぐ上の引き出しはミニバーになっていた。
おつまみにはコンビニで売っているお馴染みのスナック。
プリングルスの髭じいさんの顔をこのホテルで見る違和感といったら。
落ち着いたところで、朝食へ4Fのアトリウムへ移動する。
エレベーターでも行けるが、ここは足元のマットや手すりに
気品を感じる階段をゆっくりと昇っていくべきだろう。
満席で待たされるかなと思ったが、
所々に席があったので、ややビュッフェに近いテーブルへ。
テーブルに到着すると、ホテルのスタッフが椅子を引いてくれる。
ああ、もうこれだけでも一流はここまで違うと唸ってしまう。
椅子に腰を落ち着かせると、スタッフが順にコーヒーを注いでくれる。
ああ、自分で注ぎに行かなくていいんだ!と感激してしまう。
当時から残存する赤レンガが十字架のように剥き出しとなっている
エリアには目移りしてしまうくらいのメニューがずらっと並ぶ。
サラダだけ見ても、パンだけ見ても、明らかに品質が違う。
目にも美しいが、食べてみるとやっぱり美味しい。
焼いたパンが毎朝これだったら、どんなにお腹が幸せだろうか。
焼いたソーセージ、外国人向けでもあるのかフレンチフライ。
横須賀中央近くのホテルでは朝食にスパゲッティが食べられるが、
こちらもそれと同じくらい驚いた。
フレンチフライが食べられる事だけでなく、冷めていても美味しい。
ソーセージもそうだ。程よいスパイスはただ美味いの一言だ。
なので、お皿に載せたメニューを食べながら、
美味しいな、すごく美味しいな、ああ・・と呟いていたくらいだ。
高い天井の一面全体には明かり窓が設けられており、
白く透けた布越しに柔らかい朝の光で落ち着いている。
周りのテーブルは人が結構座っているのだが、
騒々しい雰囲気は全くない。居心地が非常に良い空間なのだ。
しばらくずっとそのままで寛いでいたい気分になる。
お腹が落ち着いた所で、再びホテル内の探検。
松本清張が泊まったという2033号室へ向かう事にしたのだ。
ドア付近の壁には額縁が飾ってあり、うち一枚は当時の時刻表。
今でいうJR時刻表の該当ページだけを綺麗に切り離した紙一枚が
収められており、キーとなる寝台特急「あさかぜ」の発着時刻が見られる。
「点と線」の中で、死体で発見される男女が「あさかぜ」が入線している
ホームでしかも別のホームからを見かけたという証人が登場する。
普段は他の列車が視界の邪魔になってしまうが、あさかぜ発車までの
4分間だけ、あさかぜ発着のホームを見渡せるのである。
その4分間で証人である容疑者が見かけたという証言の通りなら、
遠く離れた殺人現場に容疑者は死亡推定時刻には間に合わないという
アリバイトリックだ。
アリバイトリックなので、もちろん崩される事になるが
(検索すればすぐ見つかるが)ネタバレとなるのでここでは書かない。
同じようなトリックで西村京太郎のトラベルミステリー作品にも
あったような気がする。恐らく松本清張に影響は受けているだろう。
食後のデザートは丸の内南口ドーム2階にある喫茶店へ。
かの羊羹で有名な虎屋が経営するカフェ「TORAYA TOKYO」。
このカフェ、改札からだとその存在には気づかない。
広告案内はなく、公式サイトにも詳細の行き方は載っていない。
恐らくは東京ステーションホテルの宿泊者向けに利用する想定で
設計されているからだろう。
ホテル内からなら直結でこのカフェに向かう事ができる。
ルームカードキーでないと、出入り出来ないドアから出る優越感。
チェックアウトが12時なので、朝ご飯の後に優雅にカフェも楽しめる。
備品で思い出したが、仕事帰りにそのままスーツを着てきた父は
ズボンのアイロンをし始めたが、備え付けのアイロンも抜かりがない。
アイロン台は高さを調節でき、アイロンはコードレスである。
ビジネスホテルにあるようなホットプレスなどではないのだ。
チェックアウトして、エントランスから外に出る。
すぐ海にでも直行したくなるような強い日差しと青空が広がる。
昨夜は天皇皇后両陛下のご帰京のために一時閉鎖されていた
KITTE 6階の屋上庭園へ向かい、テラスから東京駅を見下ろしてみる。
昨夜はあの駅舎内で過ごしたと思うと、少し感慨深い。
一度でも富士山に登頂してから、遠くの富士山を眺めると
違った印象になるのと似ている。
古くて新しい歴史を一夜だけの短い時間だが、体験する事が出来た。
東京駅から今度は新橋へと場所を移そう。
きちんと「銀ブラ」を体験してみようと思ったのだ。
●銀座 カフェーパウリスタ
このサイトの中ほど「銀座カフェーパウリスタについて」に
「銀ブラ」の語源となった由来やこの喫茶店の歴史が紹介されている。
サイトの紹介によれば、当時の慶應学生諸君は芝公園からの散策で
途中の新橋駅では待合室で人々の往来をしばし眺めてから、
コーヒー一杯を楽しむために通った店がこの「パウリスタ」である。
銀座でブラジルコーヒーが安価で飲める、略して「銀ブラ」という
言葉はこの学生たちが造った言葉だそうである。
銀座をブラブラする、という意味も半分は正解なのである。
この炎天下を芝公園から新橋までブラブラ歩く気にはなれないので、
当時から走っていただろう、東海道線で新橋に下車する。
待合室は残念ながら存在しないので、そのまま銀座八丁目の信号を
目指して歩いていく。中央通りを3、4分程歩いて右側に見えてくる
長崎ビルの看板が目印。その1階に喫茶店は構えている。
店名はサンパウロっ子という意味だが、店内はヨーロピアン。
表の中央通りは都会的だが、店内に入ると気分はジョン・レノン。
ジョン・レノンやオノ・ヨーコが通い、移転前の銀座店の2階には
女性専用サロンがあり、与謝野晶子などが通っていたという。
一杯のカフェラテ。一杯の寛ぎ。読書するには申し分ない環境だ。
日差しで火照った体も落ち着いて、再び中央通りへ。
銀座四丁目まで銀ブラしてから、その足でスカイツリーへ向かう
心積りが急遽、予定を変更せざるを得なくなった。
スカイツリー近くから乗る水陸両用観光バス「スカイダック」だが、
強風のために今回は運休の電話を受けたからだ。
急に時間が空いてしまった。
そこで父の提案で、歌舞伎座へ向かう事になった。
ついでに少し待てば次の一幕がみられるという事で立見にはなるが
東海道四谷怪談の入場券を購入した。
初の歌舞伎に少しワクワクしながら、入場時での時間を潰すために、
再び東京駅へ戻ることにした。
朝食が遅かったので、遅い昼ご飯を東京駅内の「日本食堂」で頂く。
寝台特急などの食堂車では歴史がある「日本食堂」は現在は
社名が変わってしまっているが、この店では往年の食堂車メニューを
楽しんでもらおうというコンセプトで列車型を模した店の外観。
内装も祐天寺にある「ナイアガラ」のように列車の座席にする位の
拘りが欲しいが、そこまですると入りづらくなるのだろう。
内田百閒のような客ばかりを相手にするわけにもいかないからだ。
並ぶかと思ったが、前に2、3人待っているだけでしばらくしたら
席に案内される。
煮込みハンバーグ、ソースが甘くて大変美味しかった。
量も多すぎず、少なすぎず、父母にも好評だったようで何より。
20分くらいで食事を済ませて、再び東銀座へ。
歌舞伎座の入場はすぐに案内されなかった。入り口で待たされ、
入ってからも整理券の番号順に何名かに区切って係員が案内するので
立見する前からしばらく立ったまま待たされる。
演目開始直前まで人の出入りがあったので、映画館等とは違って
演目開始ギリギリまで案内している事にちょっと驚いた。
歌舞伎柄の幕が右から左へと引かれると、舞台が始まった。
連続ドラマでいえば、第3話や4話あたりから見ている感じなので
正直話の内容はほとんど理解出来なかった。
だが時折、鳴物による音楽は舞台装置を動かす音を誤魔化すだけでなく
一つ一つのシーンの動きがダイナミックに映える効果もあるようだ。
映画やアニメだけなく、音楽はこの世界でも重要な役割を果たす、
今更ながら観ていてそう感じざるを得なかった。
音楽によって、歌舞伎が地味とは思えなくなった。
大げさではなく、非常に格好いいと思った。「クール」である。
常連客と思しき、たまに発せられる掛け声が出来るレベルになるには
まだまだ歌舞伎に対する造詣が全く足りない。
帰りのロマンスカーは席を確保しているので、
神谷バーへ行く前の少しの時間を潰すことにした。
東京スカイツリーでは仙台七夕まつりの七夕飾りが見られるという
情報を確認していたので、お土産を見ながらソラマチ商店街へ。
スカイツリーのお膝元にある広場には噴水が解放されていて、
水着姿の子供たちが家族に見守られながら、水遊びをしている。
その脇には願い事の短冊がぶら下がる笹飾りがあった。
イーストヤードにあった七夕飾りは笹飾りではなかった。
勝手にそう思っていたが、飾りの一部を切り取って飾りました
という感じで何となく寂しい。
先程子供たちが水浴びしていた広場の笹飾りが七夕らしい風景だった。
旅行の最後は浅草の神谷バーで電気ブランを一杯、二杯と傾ける。