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紅白歌合戦を見ながら、年越しそばを食べる。
22時前には食べ終えて、しばらく仮眠する。
「ゆく年くる年」が年明けを静かに告げるとともに
自宅を飛び出し、駅へ向かないといけない。
終夜運転している列車を乗り継ぎ
今年初運行される臨時特急「メトロニューイヤー号」
に間に合わなくなってしまうからだ。
地元を1本後に出る列車でも十分間に合うが、
今年住所が変更になった友人がおり、
書いた年賀状を直接、しかも郵便配達員よりも
早く友人のポストに届ける算段があるのだ。
臨時特急「メトロニューイヤー号」は青いロマンスカー
であるMSEが使用され、昨年まで通勤列車で
運行されていた「初の日出号」を特急化したものだ。
0時過ぎ。
最寄の駅ホームには待っている人がいない。
冷たい空気の中で静かに列車を待つ。
列車がホームへ入線すると同時にいないと思っていた
人たちが奥のほうで列車に近づいているのが見えた。
この寒さでは私のように待合室の外で突っ立つなど
誰もいなかったようだ。
相模大野で一旦下車。約30分後にやってくる
各停 新宿行きに間に合うように急ぎ足で改札を抜け
友人宅へと向かう。ポストに書かれた部屋番号を確認し
そっとポケットから取り出した年賀状を投函する。
その足で急いで駅へと戻る。
今度は代々木上原まで乗っていく。しばしの仮眠タイム。
予想はしていたが、駅に停車するたびに乗客が増えていく。
そのほとんどが10代~20代という構成。
新しい年を祝うだとか、初の日出を見にいくだとか、
神社や寺に詣でるとか、そうした口実のもとに集まって
無意味にはしゃぎたいんだろうなと思えてしまう。
その「はしゃぎたい」にはこうした年末年始も含めて
誰かと年に何度かはパソコンや携帯電話でも、
テレビ電話でも、チャットでもなく、対面でそれぞれの
存在を確かめ合いたいという本能が残っているのだろう。
列車が代々木上原へ近づく頃には恐らくラッシュの時と
それほど乗車率が変わらないくらいの込み様となる。
代々木上原で千代田線に乗換え。
「メトロニューイヤー号」の始発、北千住へ向かう。
列車は出発の10分ちょっと前からホームに入線。
しばらく停車することになるが、ホームでの停車時間を
示す電光表示器の数字が気になる。
3:00・・・4:15・・・・6:20・・・・7:30・・・
5秒刻みで時間が増えていく。
普段ではこれほどの停車時間の表示は見られない。
どうやら発車までに停車時間は10分を越えそうだ。
ふと10分越えたらどんな表示になるか気になりだした。
・・・8:00・・・9:15・・・・9:45・・・・・
停車時間が10分を越えたとたんに表示がなくなった。
どうやら普段は10分以内の停車時間を想定して
使用されているらしいことが今回わかった。
列車は定刻に発車。トンネルへと入っていく。
先ほどの小田急線同様にどんどん乗客が増える。
構成は先ほどと変わらない。動機もほぼ一緒だろう。
仮眠しようと居眠りを決めるが、不思議と眠れない。
よく眠れないまま、列車は北千住へ着いてしまった。
目的の「メトロニューイヤー号」の発車は1時間後。
一旦改札を出る。
時間を潰すためと腹が減ってきたため、
夜食だか、朝食だかよくわからないが、駅前マックへ。
普段なら絶対これほどいないだろうと思われるくらい
席は所々埋まっている。目的はだいたい一緒らしい。
あるいは列車が終夜運転されることをいいことに
年越しまでどこかの店で飲んだ帰りの途中の者も
いるような雰囲気がないでもない。
ここまで来てようやく眠気がやって来る。
このまま突っ伏せばすぐにでも眠れそうな勢い。
だがここで寝るわけにはいかない。
駅へ戻り、その目的の列車がやってくるのを待つ。
すでに先頭車側には「カメラマン」の人だかり。
終夜運転だけにしばらく停車してくれるものと
思っていたが、どうやら発車ぎりぎりまでMSEは
入線させない模様だ。無用な事故を防ぐためだろう。
発車2分前の4:13。ホームの案内表示器は
「先発」の後は何も表示されていなかったが、
車両は前面、側面とともに「メトロニューイヤー」。
ただ昨年の新宿発のように、日の出をイメージした
デザインが表示されていないのは少し寂しい。
撮影もそこそこ、乗り遅れないように車内へ。
指定された席は一番後ろの席であった。
直前で取れた席であるが、購入した主は
どうやら先頭席だと思ったのが間違いだと知って
払い戻したのかもしれない。単なる想像だが。
この席のお陰で車掌の苦労の一遍を
知ることになるのだが。
北千住を出た青いロマンスカーは
特にトラブルもなくホームを離れていく。
時間帯が特殊であり、ホームに人がほとんど
いないことを覗けば、車窓から流れる風景は
普段のメトロホームウェイと変わらない。
表参道を出てから1人の男性がやってきた。
私が座っている席すぐ後ろの車掌がいるドアを叩く。
この男性、少し前にも車掌を呼び止めており
ちょっと気になっていたが、ここで一悶着発生。
聞こえてくる男性と車掌のやりとりからどうやら
車掌が発行する車内補充券が欲しいらしい。
この車内補充券は例えば特急券の指定区間を
乗り過ごした客のためにもし空席がある場合に
指定するために発行されるものだ。
今回(発券上は)満席になっているため、
この車内補充券を発行できない。
たとえ白紙の車内補充権でも発行はできない。
そう何度も説明しているのに、男性側がそれでも
粘るために、車掌乗務できる者がおらず
昨日から2時間寝ただけで、乗務していること
車内検札などの業務に支障するので困ること
を話されて、ようやく男性は諦めた。
同じ鉄道オタクとして、
自分本位の行動でこうして迷惑をかけていることが
まったく感じていないことに少々が腹が立った。
と同時に、車掌のこうした人知れずの苦労を知り
何も気にせず初日の出を見に行く自分に何となく
罪悪感のような、居たたまれない気持ちになった。
小田急としては最新車両であるMSEでこうした
臨時列車で少しでも運賃収入にしないといけないが
乗務員にとってはこうした終夜運転は迷惑以外の
何物でもないのかもしれない。
しかし我々乗客が何も考えずに安全に乗れるのは
年中無休で人知れず、こうした乗務員の苦労が
あることを忘れてはならないのだと改めて
気づかされた一場面でもあった。
流れる外の景色はまだ暗い。
この調子だと終点の片瀬江ノ島に到着するまでは
まだ空は白みはじめないだろう。
相模大野の小田原方面ホームへ一旦停車。
ここから江ノ島線へと入り、快調に飛ばしていく。
途中、大和と藤沢に停車。
藤沢はスイッチバック方式になっているため
方向転換のために運転士が移動しないといけない。
そのため数分間停車する。この間に北千住では
できなかった前面の撮影をする。
先ほどの疲れきった車掌のことを考えると
終点片瀬江ノ島へ到着する前に「回送」表示に
してしまっているかもしれないと考えてのことだったが
終点についても、予想に反して回送として発車する
直前まで「メトロニューイヤー」の表示のままに
してくれた。どんなに疲れていても、接客へのサービス
は忘れない小田急の質の高さを垣間見た気がした。
6:09。「メトロニューイヤー号」としてここまで走った
MSEは「回送」の表示でホームから離れていった。
改札方面へ向かう。
少し空が明るくなりだしている。あと1時間もしないうちに
今年最初の太陽が顔を出すだろう。
江の島へ続く弁天大橋を歩く途中、右側を見ると
大晦日とともに沈もうとしている満月の光が海にも照らし
その左には薄暗いながらも富士山。
対して左側にはこれから新年をつげようとしている
日の光が広がろうとしている。
太陽と月、その周期のめぐり合わせだろうが、
2つも見られるとは江の島に来て正解だった気がする。
このまま江の島の入り口にある鳥居を潜り、
頂上の向こう、岩屋へ着く頃には日の出は終わり
新年の日がすべてを明るく照らしていることだろう。
岩屋では手前の崖が邪魔して初日の出は拝めない。
だがその日に当たった富士山の変化はよく望める。
眠気のせいなのか、1軒の食堂に入ってしまった。
そこでもう再び食べないと思っていたものと
飲まないと思っていたものを頼んでしまった。
「江の島丼」と「江の島ビール」である。
前食べた店と違うのか、こちらは美味しかった。
ビールも悪くないなと思い直した。
見上げると、徐々に日の光が強くなっているのが
空の雲、富士山を見ると分かってくる。
トンビが数匹、海の風に乗って優雅に飛んでいた。
帰途には江ノ電に揺られて藤沢へ。
自宅では家族でおせちを食べて始まる2010年。
おそらく波乱の年明けになるに違いない。